金融危機での資産マイナス幅と香港市民の資産移動先

サラリーマンのキャッシュフローと資産分散

長短金利の逆転で派生する景気後退のシグナルの逆イールドカーブ。今後の景気が不安視される中、日本では着実に日本居住者の資産把握の手段が整ってきている。景気後退局面で金融資産がどれくらいマイナスになるのか?混乱下にある香港市民を例に自国に不安が生じた際に資産を移すならどこがいいのかについてお伝えさせて頂く。

景気後退のシグナル点灯

2019年9月12日欧州中央銀行(ECB)の理事会で、昨年12月に終えた量的緩和政策の再開を決定。

また、民間銀行が、欧州中央銀行(ECB)へ余ったお金を貸す際の金利が、マイナス0.4%から0.5%へと3年半ぶりに拡大。

アメリカでは、10年7ヶ月ぶりに、金利が引き下げられ、欧米圏では、景気減速に備える体制になっている。

金利との関係が大きいものの1つに、株価収益率(PER)がある。

株価収益率(PER)=株価/1株あたりの利益

株価:1株あたりの利益=投資元本:投資リターン

という関係にある。

・金利が上昇すると、株価収益率(PER)は、下落・金利が下落すると、株価収益率(PER)は、上昇

という傾向が見られる。

以前、アメリカで利上げが実施され、2.4%から3.0%になった際。

アメリカ株(S&P・予想利益ベース)の株価収益率(PER)は、19倍 → 17倍 へと下落した。

現在の状況下では、量的緩和政策で、現金の価値が希薄化され、金利の引き下げで、株価が上昇しやすいため、現金を銀行口座で保有していると、負けてしまうことになる。

ただ、世界の債務残高が、リーマンショック以前の2007年時点に比べ、1.8倍まで増え、

景気後退のシグナルとされる 長期金利 < 短期金利 の逆イールドカーブが発生。

さらに、米中の貿易戦争勃発から、景気後退が警戒されており、中期・長期のスタンスを決定するのは、難しい状況となっている。

金融危機株価は直近高値からマイナス50%以上

2008年9月15日に発生した大手証券会社・投資銀行「リーマン・ブラザーズ」の経営破綻を発端とした金融危機以降。

日経平均株価は、7,100円台まで下落。

そこから、前回の高値18,000円を超えるのに、約6年かかった。(1991年の高値26,000円台は、現時点で更新できず。)

一方で、アメリカS&P 500は、前回高値1,550米ドルを超えるのに、約4年かかり、ダウ平均株価は、前回高値13,000米ドルを超えるのに、約5年4ヶ月かかり、その後、右肩上がりで最高値更新を続けている。

日経平均は、約60%のマイナス、アメリカは、約48%から50%のマイナスに耐える必要があった。

多くの投資家たちは、損切を迫られたが。

耐えられていれば、再び資産は、

日本株であれば、+22%
アメリカS&Pであれば、+93%
ダウ平均株価であれば、+95%

になっている。

底で買える投資家は少なく、段階的に資金を投入していくので、単純にパフォーマンスは計算できないが。

底値から、現在値までだと・・・

日本株であれば、+206%
アメリカS&Pであれば、+296%
ダウ平均株価であれば、+276%

ということで、金融資本主義のシステムが崩壊しないかぎり、株価は過去最高値を更新していく確率が高い。

そのため、市況を知るために、いつのタイミングも、一定の資金を投入しておく必要があるが、金融危機到来時には、50%を超える大きな下落にも対応できる資金量と資金管理が求められる。

「日本で大人しく資産を形成しておけば良い。」

日本人投資家を取り巻く環境は、刻々と変化している。

日本の証券口座を通じて、さまざまな国へ投資ができる。

たとえば、SBI証券なら、アメリカ、中国、韓国、ロシア、ベトナム、インドネシア、シンガポール、タイ、マレーシア各国の一部株式や、主要な海外ETF運用会社の商品が購入可能。

わざわざ現地に渡航して、現地の証券口座を開設し、海外送金して、英語等のページから、注文を出さなくても良い。

一方で、日本から海外への送金や、海外での資産形成には、監視の目が強化されている。

たとえば、

・国外送金報告
100万円を超える海外送金は、金融機関から税務署に報告が行く

・海外財産調書制度
海外に5000万円を超す資産を持つ日本居住者に対して、税務署への申告義務アリ

・個人番号(マイナンバー)
すべての国民に割り当てられた12桁の番号のこと。行政手続きの効率化、公平な課税などが目的。国民1人あたりの資産の把握が容易になる。

・金融口座に関する自動的情報交換
非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準

など。

日本の金融機関を通じて、直接取引できる金融商品については、納税までのプロセスがクリアにされているため、厳しい縛りがない。

けれども、日本から海外の金融機関へ資金を移動して購入する金融商品については、実態の把握が難しく、また国外へ富の流出にもつながるため、徐々と制度が厳しく、そして整ってきている。

「日本で大人しく資産を形成しておけば良い。」というのが、本音だろう。

国家の体制に不安が生じた際に・・・

イギリスのエコノミスト誌が、2年に1度発表している「世界60都市の安全度ランキング」。

2015年以降、東京は1位、大阪は3位に安全な都市としてランキングされている。

一方で、2015年から、11位→ 9位→ 20位 とランキングを下げているのが、金融都市として発展してきた香港。

1997年7月1日に主権がイギリスから中国へと移譲・譲渡された後、一国二制度の元、50年間は資本主義が、継続される約束となっている。

けれども、中国の中央政府から与えられた制度であるため、以前に比べると自由が侵されていると市民が感じている事実がある。

そんな中、2014年の「真の普通選挙」を求める「雨傘運動」をきっかけに、反政府デモが活発化され、2019年の「逃亡犯条例改正案」での混乱へとつながった。

また、イギリス不動産コンサルタント会社ナイトフランク社が発表した「2019年ウェルス・レポート」によると、

2018年に100米ドルで購入できる住宅の面積は・・・

1位:モナコ:16スクエアメートル
2位:香港:22スクエアメートル
3位:ロンドン、ニューヨーク:31スクエアメートル
5位:シンガポール:36スクエアメートル
10位:上海:57スクエアメートル
11位:北京、東京:67スクエアメートル

アジアの中でも不動産価格が高く、生活コストも高いことから、香港市民の大半が出費に頭を悩ませ、貧富の差が拡大することに不満を募らせている。

このことも、デモ活動を活発化させている1つの要因とされている。

こうした状況下で、香港市民は、マレーシアや台湾などを移住先として検討しており、香港にある資金は、イギリス、アメリカ、ユーロ圏、オーストラリア、シンガポールなどへと移動している。

AAAのシンガポール

「世界60都市の安全度ランキング」で、東京・大阪と同じく、上位にランキングされているのが、シンガポール。

シンガポールは、1965年8月9日に、マレーシアから分離独立。華人である故リー・クアンユー元首相が、半世紀で、豊かな金融国家へ成長させた。

シンガポールの特徴は・・

・物的インフラが整備されている
・法治主義の浸透度が高い
・経済は開放度、経済法制が充実している
・政府支援による教育水準が高い
・自然災害が少ない

主な産業は・・・

・金融業
・エレクトロニクス産業
・医薬品、医療機器製造業

拠点を置く金融機関は1,200社超、アジア有数の資金調達・資金管理拠点として注目されており、S&Pの信用格付けは、AAA(アジア主要国で唯一のAAA)。

2021年から2028年までの経済見通しは、前年比での実質GDP成長率2.3から2.4%と、NIEs(韓国・台湾・香港・シンガポール)の中では、高く予測されている。

ただ、今後については・・・輸出依存度が高いため、外国経済の動向に振り回されやすい構造となっていること。また、所得水準が世界でも最高水準に達しており、人口ボーナス残存年数もマイナスで、外国の真似る形での発展が難しくなっていること。が懸念事項とされている。(*「シンガポール投資環境2019年4月」みずほ銀行・みずほ総合研究所作成より)

滞在するために必要なビザ(査証)も取得・更新が難化傾向にある。

条件としては・・・

EP:
・月収:3,600SGD以上
・難関大学卒業者

Sパス:、
・月収:2,300SGD以上
・大学、短大、専門学校卒であること
・管理職、専門職等の経験年数を重視

更新の際には、追加での資料提出を求められたり、追加調査が入ったりということで、更新が期限ギリギリといったケースも出てきている。

イギリス人材コンサルティング企業「ECAインターナショナル」による滞在コスト(生活費)に関する世界的調査では・・・

アジア:
1位:トルクメニスタン・アシガバート
2位:香港
3位:日本・東京
4位:韓国・ソウル
5位:中国・上海
6位:シンガポール
7位:日本・横浜
8位:中国・北京
9位:韓国・釜山
10位:日本・名古屋

(*家賃、車、学費等は除く)

シンガポールの生活費は、日本とほぼ同程度なので、生活コストを下げるためにシンガポール移住というのは難しく、日本並の生活コストで、海外生活を優雅の楽しみたく、資産に余裕がある富裕層限定ということになる。

日本は、島国であり、歴史の長い、独立した国家。

そのため、香港のような大きな混乱が発生することは考えづらい。

しかし、1つの国・地域に資産を全て置いていると、急な体制・制度の変更で、資産の価値が下がったり移動できなくなる可能性がある。

安定した経済成長が見込まれ、政治的に安定しており、金融に関する縛りが少ないシンガポール。

現地に居住せずとも、現地の金融機関を利用し、資産を作り・守っていくことは、資産分散の上で重要な一手になる。

追伸

金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)によるマネロン・テロ資金対策の国際基準(FATF勧告)で、加盟国の金融機関は、厳格な顧客管理が求められている。

そのため、国・地域に合法的に滞在するための査証を保有しない、他国居住者(旅行者)については、口座開設を受け付けないというケースが増えている。

資産管理のために、国・地域を分散しようと、現地の金融機関を訪れても、新しく口座を開設するのが、難しい現状がある。

一方で、すでに口座を保有している場合は、求められる基準をクリアし、求められる情報を提出している限り、現時点では、引き続き利用が可能。

つまりは、開ける内に開いて、基準を満たし、活用しておく必要がある。金融都市である香港とシンガポールなら、まだ間に合う。

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