2005年のアーンスト&ヤング・キャビネットによる多国籍企業の調査によると、商品価格による所得移転が、税金対策上最も重要な手段とみなされているという結果がでました。
異なる国・地域にある企業の取引で、独立した企業間では、100万円の商品を50万円で取引すると
輸出側の所得は、50万円分減少、輸入側の所得は、50万円分増加することになります。
グループ会社間の取引の場合は、上記のように商品価格を操作することにより、所得を移転することが実質的に可能となります。
企業としては、税負担の軽い地域で多くの収益を計上することで、利益をより多く確保できるので、積極的に活用したいところですが、本社を管轄している国・地域の税務当局としては、本来自国・地域の収益として課税対象となる金額が、海外企業へ移転、喪失してしまうことから独立した当事者間で行われるであろう価格で、取引が行われたものとして課税所得を求めることとした制度「移転価格税制」が導入されています。
(日本の場合は、1986年の税制改正で導入)
比較的古い制度なのですが、企業側の認識と税務当局の認識に違いがあり、本社社員の海外子会社への出張や出向などは、技術やノウハウの提供=価値を移転しているとされ、指摘が入るケースが増えています。
・日本ガイシへの指摘
2010年3月期までの5年で、160億円の申告漏れを名古屋国税局から指摘されました。
米国とポーランドの海外子会社が自動車用排ガス浄化装置の部品を製造する際、技術料を日本ガイシに支払いましたが、国税局は適正価格より安価にして同社の所得を海外子会社に移したと認定しました。
・パナソニックへの指摘
2013年3月期の2年間で、100億円の申告漏れを大阪国税局から指摘されました。
複数の海外子会社に無償で人材を手当したり、技術面での支援をした点について、本来なら、海外子会社から適正な費用を受け取る必要があり、無償の支援は、海外子会社への寄付金に該当し、課税対象になるとの認定となりました。
(ちなみに、2013年3月期までの2年間で、1兆5,200億円を超す赤字を計上しましたが、2014年3月期の連結決算では、最終損益が1,204億円となっています。)
対策としては、税務当局の事前確認制度を利用すること(Advance Pricing Arrangement)
社員の移動・出向や、技術やノウハウの提供のロイヤリティ料率を設定しておくことが挙げられます。
国内で思わぬ落とし穴に落ちないため、グループ企業を含め海外展開をする際には、準備をすすめておく必要があります。