イタリアのブランド「ドルチェ&ガッバーナ」に脱税問題が持ち上がっており、ミラノにある全9店舗を一時閉店しています。
「ドルチェ&ガッバーナ」は、1985年イタリア・ミラノで創業されて、高級ファッションブランドとして世界的に展開しています。「D&G」のマークをよく見かけると思います。
2013年6月に、創業者のドメニコ・ドルチェとステファノ・ガッバーナに対し
・禁錮1年8ヶ月(執行猶予付き)
・罰金50万ユーロ
・脱税分の納税(2億ユーロ)
の判決が出て、2014年4月30日にイタリア高裁で、禁錮1年6ヶ月の実刑判決がでました。
問題となっているのは、「ドルチェ&ガッバーナ」の運営拠点がイタリアにあるにも関わらず、2004年に持ち株会社であるルクセンブルクの「ガド」社に「ドルチェ&ガッバーナ」と「ディー&ジー」のブランドを売却し、10億ユーロの利益を得ていたことです。ブランドの権利をオフショア法人に売却したのは、そこでブランド使用料などを受け取ることで、税負担を減らすことができるスキームを意図していたのでしょうか。
2014年10月24日にイタリア最高裁判所で、逆転無罪の判決が出て、この問題は終焉を迎えることになりました。
ルクセンブルク法人については、こちら
摘発の背景には
「Falciani list」というのもが存在します。
Falcianiというのは、人の名前で、ジュネーブのHSBCで勤務していた男性で、チューリヒ、ジュネーブ、ルガノのHSBC銀行内の未払い税金に関する130,000の顧客データをコピーして、外部に持ち出して、公開してしまいました。
この顧客データは、まだ全て解析されていませんが、個人や企業の秘密口座情報、中には、映画監督のものや有名ファッションブランドのものが含まれており、資産総額が69億ドルにのぼるともいわれています。
すでに明らかになっている数字で、フランス、ギリシャ、スペインでは、「Falciani list」を基に、6.1億ドルの回収に成功しています。
データを公開した理由
Falcianiが、持ちだしたデータを公開した理由を、スイスにあるほとんどの銀行は、内部告発プログラムを持っているが、それが内部告発者を罰するものであるため。HSBCなどは、脱税やマネーロンダリングを支援し、社会を犠牲にすることで、自分達が有利になるシステムを構築しているため。などを雑誌へのインタビューで上げています。
Falcianiは、スイスの銀行機密法に違反しているため、スイス政府から身柄の引き渡し要求が出されていますが、現在はフランスに滞在して、フランス政府と共に、脱税やマネーロンダリング摘発の活動を行っています。
この「Falciani list」は、他の有名ブランドや一流スポーツ選手の資金管理に一石を投じることになり、大きな波紋をよんでいます。
FATCA外国口座税務コンプライアンス法
米国納税義務者による米国外の金融口座等を利用した租税回避を防ぐ目的で、米国外の金融機関に対し、顧客が米国納税義務者であるかを確認すること等を求める法律
FATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)
外国口座税務コンプライアンス法が日本で2014年7月1日から各金融機関で適用が開始されました。
2013年6月に発表された
「国際的な税務コンプライアンスの向上及びFATCA実施の円滑化のための米国財務省と日本当局の間の相互協力及び理解に関する声明」に基いています。
米国納税義務者とは、
「米国におかえる納税義務のある米国居住者および米国籍保有者、米国法人など
そのほか、米国居住者および米国籍保有者が実質のオーナーとなっている外国法人」
となります。
米国永住権保持者、米国内に対象年度のうち、183日以上を滞在した場合は、
米国居住者に該当する可能性があります。
米国法人でも上場している会社や、非課税団体などはこの限りではありません。
米国納税義務者に該当する場合は、
新規の口座開設については、受け付けされず、
開設済みの口座については、口座情報が、
IRS(The Internal Revenue Service)アメリカ合衆国内国歳入庁へ2015年3月末までに情報が提供されます。
この情報提供の前には、口座保有者の同意が必要となります。同意されなかった場合は、IRSが日本国税庁に情報開示を求め、国税庁から各金融機関に確認が入るという流れとなります。
同意する、しない、どちらにしても口座情報はIRSに渡るということになります。
該当するかの確認については、2016年6月末までに金融機関によって実施されますが、
2014年6月30日時点で、
口座残高が、
100万ドル以上の口座は、2015年6月末までに確認されます。
5万ドル以下の口座は、報告の対象外となります。
これは、日本の金融機関だけではなく、
有名なオフショア地域
BVI、バミューダ、マン島、ルクセンブルク、リヒテンシュタインなど
そしてスイス、イギリスなどは同意しています。
そして、中国、香港、シンガポール、マレーシア、タイなどは、大枠で同意しています。
以前から香港では、米国永住権保持者の銀行口座開設が難しかったり、金融商品の契約が規制されたりという話がありましたが、FATCAにより、明確に米国納税義務者の口座開設が困難となりました。世界的に居住者の資金監視および課税強化の流れにつながっていきそうです。
スイスの地位を揺るがす事件
漫画「ブラックジャック」で「報酬は、スイスにある俺の口座にふりこんでおけ!」日本人が、スイスの銀行は、秘匿性が高く、資産家が利用しているというイメージを持つのは、漫画の影響が強いかもしれません。
スイスが秘匿性が高いうことで知られているのは、ナンバーズアカウント取引に関して、個人名義が一切表に出ない匿名口座があり、さらに、永世中立国として他の国から圧力を受けにくい政治環境また優遇された税制などから、スイスは世界中の富裕層の資金が集まっていました。
無限責任を持つ個人投資家がパートナーとして経営しているプライベートバンクのため、数世代に渡って利用している富裕層は多いようです。ボストン・コンサルティング・グループによるとスイス国内にある外国人金融資産額は、2兆USドル=200兆円です。
そのスイスの地位を揺るがしかねない出来事が2007年から発生しています。
大きく分けて2つ
1つめは、
- 2007年のサブプライム問題で、UBS銀行(Union Bank of Switzerland)が通年で40億フランの損失を計上。さらに、2008年にスイス政府より40億フランを超える自己資本注入と500億フランを超える不良資産買取を受けることになり、経営危機陥ってしまったこと。
2つめは、
- 2009年にスイス政府が、UBS銀行(Union Bank of Switzerland)が、保有しているアメリカ人顧客4,450口座の詳細情報をアメリカ側に提出したことです。
2009年4月に開催されたG20
過去の形の守秘義務は、終わらせる」
とされた金融サミットで、OECDの基準に従う意思がない国をリスト化した「ブラックリスト」入りを回避するために、スイス政府は、租税条約について再交渉することになりました。
さらに、アメリカ人顧客の課税逃れ支援をしているということで、アメリカ政府から提訴されたUBS銀行(Union Bank of Switzerland)事態の収拾を図るため、スイス政府は、アメリカ人顧客4,450口座詳細情報をアメリカに提供することになったのです。これを受けて、スイスのプラーベートバンクは、顧客のターゲットをアメリカではなく、アジアなどの新興国にシフトしています。
2014年5月6日にパリで行われた、OECD理事会で、「各国の税務当局間で金融講座情報などを自動する」という基準にスイスが合意しました。
そのため、顧客情報の機密性は、ほぼ無いという状態となりました。
急成長予想のシンガポールで
スイスの状況が変化している中で、
外国人の金融資産が新たに集まっている場所はどこか?
それは、「シンガポール」と言われています。
シンガポール国内の外国人の金融資産規模は、ボストン・コンサルティング・グループによると約8,000億USドル=80兆円とのこと。
シンガポールにお金が集まっている背景としては、オフショア金融センターとして優遇税制や規制緩和によって、積極的に外国人投資家を受け入れてきただけではなく、国内法によって、銀行が顧客情報をがっちりとガードして、外部に漏らさないとされていたからです。
実は、2009年から
2009年4月に開催されたG20
過去の形の守秘義務は、終わらせる」
とされた金融サミットで、OECDの基準に従う意思は示しているけれども、まだ実践をしていない国=グレーとして国名を挙げられたシンガポール。スイスもこの時にグレーとして名をリストに挙げられています。
2009年6月には、シンガポール国内法で禁止をしていた、外国人預金者の利息やキャピタル・ゲインの情報開示について、外国に協力することを表明しました。日本とは2010年に「租税協定改正議定書」を調印、効力が発生し、適用されています。
改正議定書のポイントは、
・全ての種類の租税が情報交換の対象となる
・要請があれば情報提供を拒否できない
の2点になります。
そのため、
・金融機関情報(銀行・証券・ファンド会社)
・ノミニー
・トラストの受託者
などシンガポールの金融機関が保有している機密情報を入手することが実質可能となっています。スイス・シンガポールにある銀行の秘匿性が高いという状況は、徐々に崩れつつあります。
そうはいっても
成長しているアジア各国の資金は、オフショア金融センターのシンガポールに集まってきています。ウェルスインサイト(WealthInsight)社によると、2020年までにシンガポールがスイスを上回る世界最大のオフショア資産運用センターに急成長すると予測されています。
スイスの銀行は、欧米における利益が悪化し、経営難が追い打ちをかけたことから、ターゲットを急成長中のシンガポールに変更して、ジュリアス・ベア(Julius Bär)、クレディスイス(Credit Suisse)などが、シンガポールで金融免許を取得して、新規顧客の開拓を進めています。
そのシンガポールで
2013年12月シンガポールにあるスタンダードチャータード銀行のプライベート・バンク部門において、顧客情報の流出事件が発生しました。
*プライベートバンク部門は、250万シンガポールドル以上の富裕層が対象となっています。約2億円ですね。
647名の2013年2月分の口座情報が、ステートメントなどの印刷請負会社のサーバーから盗まれたとのこと。国際ハッカー集団が関与している可能性があるようです。
顧客情報流出事件が、大きく報道されたことを受けて、香港市場のスタンダード・チャータード銀行株価は、2013年初来安値を更新してしまいました。
シンガポール政府およびシンガポールに拠点を置いている銀行関係者は、今後の資金流入を加速させるためにも、情報流出を未然に防ぐことができる仕組み作りにを費やす必要が出てきました。