2015年4月にイギリスの法人税率が20%まで下げられることが発表されています。法人税率が20%になると、日本の外国子会社合算税制の対象となるので、イギリス法人の活用を考えている場合は、注意しなければなりません。
イギリス法人
取締役:1名(居住義務なし)
株主 :1名(居住義務なし)
秘書役:1名(居住義務あり)
資本金:1ポンド(授権資本制度)
法人の運営を考える上では、他国の法人と比較しても、ハードルは高くありません。
また、イギリス法人の税率は、2014年4月まで23%、2014年4月より21%、2015年4月より20%予定と段階的に下がっており、外国子会社から受け取る配当は、100%免税する制度や、グループ企業間で損益の振替が可能になる制度があり、メリットが高い法人として注目されています。
グループ企業間での損益振替制度
1967年に導入されたグループ企業内での損益を振替できるもので、75%以上の株式保有関係もしくは資本関係に基づく会社グループで、欠損がでている会社の全部もしくは一部を振り替えて、利益がでている会社の所得と通算することができる制度です。
イギリスでは、全ての法人に会計監査および決算書の提出・公開が求められており、会計処理などにおいて正当性が保たれているので、制度が成り立っています。
この制度は、グループリリーフ制度と呼ばれているものですが、制度創設当初は、イギリス国内のグループ法人のみを対象としていましたが、ある裁判をきっかけに、EU加盟国に加えて、リヒテンシュタイン、アイスランド、ノルウェーを拠点とする外国法人を介したグループにも適用されるようになりました。
Marks & Spencerと裁判
1894年にイギリスで開業、プライベートブランドの衣料品、雑貨、食品などを販売する小売業者。イギリス以外43カ国でも展開しており、香港やフィリピンでも店舗を見かけます。
Marks & Spencerが、1990年代後半にフランス、ベルギー、ドイツ、フランスの子会社で計上された損失を通算することができなかったため、海外展開しているグループ会社の損失が相殺できないのは差別であると訴えました。
この裁判で、2005年にイギリス法人のグループ会社間のみ適応可能だったものが、EU加盟国に加えて、リヒテンシュタイン、アイスランド、ノルウェーにまたがるグループ間まで拡大するという判決が下されました。
グループリリーフ制度は、多国籍展開する企業にとっては、メリットが高いですが、イギリス法人を日本法人の子会社として設置している場合は、2015年4月にイギリスの法人税率が20%になることで、イギリス法人が、日本の外国子会社合算税制の対象となり、日本法人の所得に合算する形で、日本の税率で課税される可能性が出てきます。
イギリス法人を日本法人と関連がある形で活用する場合は、スキームを細かくチェックしておく必要があります。
ソフトバンクのイギリスへの移転議論
ソフトバンクグループが、本社機能をイギリス・ロンドンへ移転検討していたことが明らかとなりました。
ソフトバンクグループは、2015年7月にグループを統括する持ち株会社として、誕生しました。
グループ企業として、
・ソフトバンク株式会社
・ヤフー株式会社
・Sprint Corporation
などがあります。
イギリス法人が注目された理由としては、
・日本よりも法人税が安い
・インドでの投資を進めている
ことが挙げられています。
インドで再生エネルギー事業を進めるために、インド企業と台湾企業とともに、合弁会社を設立し、まず、太陽光発電事業に、200億ドルを投資する予定となっています。
◯イギリス法人の税率は、2020年に18%へ
イギリス法人の税率は、
2014年4月まで23%
2014年4月より21%
2015年4月より20%
と段階的に下がっており、
外国子会社から受け取る配当は、100%免税する制度や、グループ企業間での損益振替が可能になる制度があり、メリットが高い法人として注目されています。
法人税については、イギリス財務省が、
2017年に19%
2020年に18%
と段階的に引き下げる方針を打ち出しています。
日本の法人税については、法人実効税率を現在の32.11%から2016年度は29.97%に下げる方針となっていますが、イギリス法人とは約10%の税率の違いとなるので、多国籍に展開している企業にとっては、日本を拠点とすることのメリットは、少ないと考えるのでしょう。
◯イギリスの金融ネットワークの存在
法人の運営を考える上では、他国の法人と比較しても、ハードルは高くありません。イギリス帝国時代の植民地などの関係で、現在も金融ネットワークが存在しています。
王室属領
マン島、チャネル諸島(ジャージー、ガーンジー)
海外領
ケイマン、ジブラルタル、バミューダなど全部で14
以前の植民地
香港、シンガポールなど
タックスヘイブンと呼ばれる地域であったり、金融で力を持った地域が含まれています。
イギリスの法人税引き下げで、多くの企業からの注目が集まるでしょうが、
その一方で、
・租税回避地などを経由した多国籍企業への課税を強化
・非居住者に対する優遇税制などの見直し
も予定されているため、イギリス法人の利用は、最新の税制を細かく確認する必要が出てきます。
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