マレーシアの政府系ファンドOne Malaysia Development(1MDB)が、ケイマン諸島のファンドに投資していた23.18億米米ドル全額をマレーシア国内に償還したことが、2015年1月13日に発表されました。
1MDBは、マレーシア政府が100%出資を行っている政府系ファンドですが、一般市民団体から第三者への資金流出の心配があるという指摘があり、償還することになったようです。
政府系ファンドの1MDB
1MDBは、マレーシア政府が100%出資している政府系ファンドで、
マレーシアの継続的な発展を目指して、2008年にTerengganu Investment Authority (TIA)として設立され、One Malaysia Development(1MDB)へ2009年に名称変更しています。
国内への投資誘致と海外への投資だけではなく、資源部門と不動産部門での取り組みもあり、資源部門では、15の電力プラントと淡水化プラントを5カ国で展開、
不動産部門では、Tun Razak Exchange (TRX) と呼ばれるクアラルンプールの一番の金融街をペトロナス・ツインタワーの近くに開発しています。
マレーシアのナジブ首相が、創設者で、諮問委員会トップですが、現状で、110億ドル(約1兆3200億円)の債務を抱えてしまっています。
問題となっているのは、ナジプ首相関連
問題の発端となったのは、総選挙直前の2013年に1MDBから、ナジプ首相の個人口座に計6億8,100万ドルが振り込まれていたものでした。
その後、
2015年はじめ
1MDBの資金11億ドルが、ケイマン諸島からスイスBSI銀行シンガポール支店へ移動
2015年7月
1MDBの資金7億ドルが、スイスファルコンプライベーとバンクシンガポールへ移動
1MDB創設時の協力者であるマレーシア人投資家、ロー・テックジョー氏の口座5億ドルについてマレーシア中央銀行がシンガポール警察に捜査依頼
2015年8月
スイス検察が、1MDB幹部2人などに対して、汚職およびマネーロンダリングなどの罪で刑事訴追手続きを開始
騒動をうけて関連口座が、
2015年7月7日:マレーシア当局が、ナジブ首相関連6口座を凍結
2015年7月22日:シンガポール当局が、1MDB関連口座2つを凍結
2015年9月:スイス検察当局が、1MDB関連口座と資金を凍結
となっています。
マレーシア当局が、資金の動きを追跡し、迂回に協力した人をリストアップし、
汚職摘発委員会Malaysian Anti-Corruption Commission(MACC)から証言を求めているほか、
スイス・マネー・ロンダリング通報局Money Laundering Reporting Office Switzerland(MROS)に不正送金に関する報告があり、
スイス国内の銀行と1MDBと関係が、金融規制法に違反していないかの捜査が入っています。
ナジブ首相は、資金は中東の寄付者からのもので、党やコミュニティのために必要な金だったとし、私的目的で受け取ったのではないと説明していますが、
1MDBの資金問題の特別捜査班を率いていたマレーシアの警察幹部が更迭されるなど、問題が複雑化しており、広がりを見せています。
今年4月、税制度の見直しにより、売上税・サービス税を廃止し、消費税にあたる物品・サービス税(GST)を導入により、消費者の購買意欲が減退しており、また、マレーシア・リンギットが、1998年以来1ドル=4リンギット台乗せたり、と経済面でも状況が変わってきています。
現役の首相のスキャンダルのため、首都クアラルンプールで市民による大規模なデモが発生し、また1MDBは、不動産プロジェクトも担っているので、今後、この問題は大きくなりそうです。
世界経済の約4割の資産を運用する政府系機関
公的通貨・金融機関フォーラム(OMFIF)
Official Monetary andFinancial Institutions Forum
によると、政府系投資機関は、
・157の中央銀行
・156の公的年金基金
・87の政府系ファンド
が存在しており、世界経済の4割に相当する29兆1,000億米ドルの資産を運用しているとされています。
政府関連のお金が、市場で大部分を占めることへの危機感から、
2008年に、国際通貨基金(IMF)は、政府系投資機関と「情報開示に関する自主規制」を作成しており、経済協力開発機構(OECD)も、政府官僚と中央銀行の利益相反を避けるため、「政府系投資機関の管理に関する指針」を作成しています
各国政府系のファンドSWF
政府系ファンドは、Sovereign Wealth Fund(SWF)と呼ばれており、良くニュースに登場するのは、中東の資源国であるクウェートやアブダビの投資庁です。
SWFには、大きく分けて2種類あり、
原油や天然ガスからの収入を原資とする資源系と、
外貨準備や財政黒字を原資とする非資源系です。
アメリカの政府機関の調査によると、2007年秋時点で、
39のSWFが資産残高10億米ドル以上で、
そのうちの10が、資産残高100億米ドル以上
とされています。
SWFの設立年と資産残高の一例は、
UAE:1976年 1兆米ドル
Abu Dhabi Investment Authority
ノルウェー:1990年 3,220億米ドル
Government Pension Fund
サウジアラビア:1952年 3,200億米ドル
SAMA Foreign Holdings
クウェート:1953年 2,130億米ドル
Kuwait Investment Authority
中国:2007年 2,000億米ドル
China Investment Corporation
シンガポール:1974年 1,080億米ドル
Temasek Holdings
ロシア:2008年 1,275億米ドル
National Welfare Fund
になっています。
ノルウェーのSWFの運用成績は今後低下見込み
ノルウェーのGovernment Pension Fundについて、ノルウェー中央銀行総裁は、原油価格下落により、運用成績がピークに達したと発表しました。
これまでは、景気の過熱を防止するために、原油収入の多くをSWFに振っていましたが、原油価格が下落して、石油業界からの収入が減少したため、今後の見通しについて語ったものとなります。
運用資産は、約8,600億米ドルとされており、実質リターンは、平均で3.8%となっていました。
SWFの運用は、ヘッジファンドなどとは異なり、投資先の運営などに関わることがなく、様々な国に長期視点で分散投資されます。
投資先の詳細については、全てが明らかにされないケースがありますが、投資規模が大きいため、パフォーマンスが低下した投資先に、そのまま投資を継続するか、それとも、新たな分野へ投資するか、の決断は、市場に影響を与える可能性があります。
また、投資先の決定に、政治的な思惑が絡むことで、不透明さの原因となるという指摘もあり、今後SWFを取り巻く環境に変化が訪れそうです。
原油価格の下落により、政府系ファンド(SWF)が、一部金融資産の現金化を進めており、株式市場に影響を与えているとされています。
JPモルガン・チェースによれば、2016年1月末時点で、
SWFによる
株式の売りは、750億ドル相当
債券の売りは、1,100億ドル相当
に達する勢いとのことです。
SWFの資金借り入れ
カザフスタンのSWFサムルク・カジニャJSCは、2015年10月に、シンジケート・ローンから、15億ドルを借り入れました。
原油価格の急落で、資産が減少したことと、問題のある原油投資をしてあり、資金繰りが厳しくなった子会社を救出するためとのこと。
SWF国際フォーラム(IFSWF)は、
・年次報告
・政府による規則
・リスク管理
を柱としたサンティアゴ原則の導入をフォーラム参加29カ国に進めています。
が、少なくとも
4カ国は、資産規模の非公開
5カ国は、年次報告書の未公表
となっており、
また、2008年から、国際通貨基金(IMF)も、情報開示に関しての自主規制を作成していますが、SWFの全貌を把握するには、難しい状況です。
金融安定理事会(Financial Stability Board:FSB)が、SWFの状況については、調査を進めています。
FSBは、金融システムにおける脆弱性への対応や金融システムの安定を実現するため、2009年に設立されました。
2013年時点で、主要25カ国・地域の中央銀行、金融監督局・財務省などの代表が参加しています。
世界市場を巻き込んだ大きな流れになるかもしれないので、今後も原油・資源価格の推移には注意が必要です。